古き良きドコドコ感と、洗練された現代風水冷ツイン
実際にストリートスクランブラーに乗ってみると、思いのほかボディが大柄なのがわかる。本気でオフロードモデルを作るならば、もっと軽量スリムに仕上げるはずで、このポイントからもこれが、ストリートバイクであることを証明している。
エンジンはボンネビルT100系の水冷900ccツイン。ただし、このエンジンのスゴいところは、そのエンジンフィーリングを、空冷チックに、ノスタルジックな特性に仕上げていることだろう。

外観も、シリンダーに深く刻まれた冷却フィンといい、巧妙に目立たなくマウントされたラジエターといい、初見のひとを空冷だと納得させるに十分なルックスだ。クランクケース後方には、まるで1960年代の「別体ミッション」エンジンのようなふくらみさえ造作していて、エンジンのルックスさえモデルの魅力の一部だ、というトライアンフのアピールがよくわかる。
さらにパワーの味付けも、最大トルクの発生回転数が3000回転以下とされていることでもわかるように、とても現代の水冷ツインのそれとは思えない仕上がりだ。特に270度クランクを採用したことで2気筒の爆発を不等間隔とし、回転フィーリングにすら「味」を持たせているのがすごい。
まさに、ここまでやるか、のこだわり。
さらにその上の中回転域では、2つのシリンダーがきれいな同調を感じさせてスムーズな回転フィーリングとなり、低回転のドコドコとした味付けと両立させている。のんびり走りたい人は、古きよき空冷OHV時代に思いを馳せ、キビキビとした走りを楽しみたい人は、小気味いいビートを奏でる――これが、このストリートスクランブラーで味わえる最大の魅力だろうと思う。

ミッションをトップ5速に入れて、2000回転くらいで60km/h。この時が、エンジン回転フィーリングが体に伝わってこない無振動状態だ。滑るように、まるで真空の中を走るストリートスクランブラーにムチを入れるべく、ここからアクセルをグッと開けると、腹の底からズドドドド、と水冷ツインが唸り始める。

きちんと加速するなら、60㎞/hでは4速くらいが効率がいいのだけれど、らしい力強さは、5速2000回転からのアクセルオープン。この瞬間が、トライアンフだ。
街を流すスタイリッシュなロードスター、高速道路で距離を延ばすクルーザーであり、ちょっとしたダートへ踏み入っても遊べる。ストリートスクランブラーは、1台で何通りも遊べるオトナのツールなのだ。(文/中村浩史)